2017年7月6日木曜日

M&AでEXITした医療機器ベンチャー

 Link-J主催のネットワーキング・ナイトに参加しました(2017/7/3)。Biomedical Solutionという医療機器ベンチャーのお話でした。日本では、M&AによるEXITはあまりなく、ほとんどのベンチャーはIPO(株式上場)を目指します。これは、せっかく頑張って会社を大きくしたのに「乗っ取られる」とか「買収される」ことになるから、と考えられるためと言われています。
 これはベンチャーの創業者が買収をどう考えるかだと思います。買収されことが目的で起業したのであれば、そのEXITは「成功」です。しかし、IPOが目的(IPOが最終目標ということはそもそもIPOはできませんが、)だとすると、買収は想定外で「失敗」ということになります。ただ、IPOだけでなく買収も選択肢の一つとベンチャー創業者が考えているのであれば、買収も「成功」であったと言えます。
 しかし、IPOして上場会社として会社運営をし、さらに企業成長させたいという思いで創業したのであれば、IPO以外のEXITは「失敗」と言わざるをえません。
 買収されるとどうなるのでしょうか。買収された翌日から社長以下全員が退社ということでしょうか?それは「乗っ取り」です。買収する会社が買収後、順調な企業成長を望むならば、現状の経営者や社員はそのまま維持するというのが普通の意思決定となります。買収時に、ベンチャー側からそう言う条件を出すことは何の問題もありません。
 簡単に言うと、普通は、「買収=大企業の子会社になる」ということになります。買収の対象が特許技術だとそれを大企業に売っておしまい、ということもあります。しかし、当初の事業目的達成のために企業成長させるためには、創業者や社員の力がどうしても必要になります。なので買収されても子会社として同じメンバーが事業を続けると言うパターンになるのです。
 しかし、事業目的が一旦達成されたら、大企業の一部門、一子会社として運営されることになりますので、創業者は退社するのが普通です。その会社で次の事業目的に向かって進みたい、ということだと売却(買収)は良い判断ではないかもしれません。
 なお、大会社が吸収合併や事業譲受ではなく、子会社化による買収を採用するのは、人事管理やある程度自由な経営をさせるという点で有利です。大会社の社内に取り込む吸収合併や事業譲受の場合は、その大会社の人事・給与規程が適用され、意思決定も大会社の経営方針に左右されることになり自由が利かないからです。

 さて、Biomedical Solutionの話に戻しましょう。この会社は、創業後、医療機器専門のVCであるMed Ventureから出資をうけ(Jafcoも出資しました)、現在、臨床試験中です。その状況で、大塚製薬(ホールディングス)の子会社に買収されました。社長以下のメンバーはそのまま、事業を続け、医療機器の製品化を進めます。この会社の場合、プレスリリースによると全株式を大塚傘下のJIMROという会社に売却したということです。すなわち、創業者とVCの持株が全部この会社に売却されたということになります。会社のメンバーは持株を全部売却して、売却益を得た後もその会社の雇われ経営者や社員として事業を続けると言うことになります。また、VCは売却の時点で全株式を売って売却益を得、それ以降は、その会社との関係は切れます。
 この会社が開発している医療機器は、ステントという網状の器具です。脳血栓で脳の末梢血管が詰まったときに、この器具をカテーテルを使って大腿部から血管を通って脳まで入れて、詰まっている固まった血液を掻き出す器具です。そんなことができるのかと信じ難いですが、すでに他社が製品化しており、医療現場で使われています。しかし、現状の製品は血管を傷つけることがあり、命は取り留めても後遺症が残る、というようなリスクがありました。当社の製品は、非常に柔らかい素材でできていることから、血管を傷つけることがない、という優位性を持っています。

 医療機器ベンチャーはIPO向きではなくM&A向きということも言えます。製品を作り臨床試験を実施し、そして世界の医療機関に販売するのは、ベンチャー企業にとって資金が多くかかり、会社組織を大きくしていく必要があることから、大変なことです。Biomedical Solutionの場合、臨床試験の途中で買収されたわけですが、その後の資金や販売体制などは買収した会社が提供していくということになります。そういう点で、M&Aに向いているということ言えると思います。
 当初の事業目的達成またはその途中で売却するのと、IPOするのとでは、企業価値を比較するとどうでしょうか。IPOには時間と資金が必要ですので、一概に比較は難しいですが、ベンチャーのEXIT時点での企業価値という点では、断然IPOの方が高い企業価値が狙えます。しかし、例えば、CEOが研究者タイプの人の場合には、もし資金が得られたとしても、人を雇ってやったことがない販売まで自社でやるとなるとうまくいくかどうか分かりません。
 要するに、研究開発リスクを乗り越えたら、ビジネスリスクが待っていると言うことになります。それらを乗り越えられる経営力が必要になると言うことです。リスクが大きいだけにその成果としての企業価値も得られると言うことになります。M&AかIPOか、と言う判断の分かれ目はこんなところにあると思います。
 シリコンバレーのベンチャーは、創業者が研究者の場合、エンジェルやVCが出資した時に、CEOを経営のプロに入れ替えると言うことをするそうです。実際、アメリカのベンチャーのCEOには、素晴らしくプレゼンがうまい人が多いように思います。これは、有名ビジネススクール卒で、経営経験のあるプロ経営者にCEOになってもらって、事業を推進するためです。当然ながら、研究者がCEOを続けるより、事業の失敗リスクを下げることができます。
 日本の場合は、そもそもプロの経営者は非常に少なく、ベンチャーのCEOになってくれるような人を探しても見つからないことが多いと思います。そう言う人材プールがあれば、日本のベンチャーの成功確率を上げることができます。
 M&AによるEXITでは、創業者が早めに退社し、その時点ではまだ若いので、次の起業をすることができることが利点です。M&AによるEXITが増えれば増えるほど、ベンチャーを起業して成功させた経営者のプールに人材が溜まっていきます。その結果、シリコンバレーのようなエコシステムが生まれるようになるわけです。
 高い企業価値を求めるのであればIPOですが、エコシステムのためにはM&Aも見過ごすことはできません。

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