2017年4月22日土曜日

Meditec 2017 & 再生医療セミナー

Meditec2017(東京ビッグサイト)に行ってきました。Meditecは、医療機器の製造・設計に関するアジア最大級の展示会・セミナーと銘打っています。419日(水)から21日(金)までの開催ですが、日程の都合上21日(金)だけ参加しました。この手の展示会は、通常水曜日から金曜日の3日間です。

私がこの展示会に行ったのは、これで3年連続です。医療機器の部品供給会社や製造受託会社が多数出展しており、顧客としての医療機器製造会社を求めている会社が全体の8割ぐらいになります。これらの出展会社は、大手医療機器メーカーや本業が医療機器製造でない会社の新規参入を狙っているように思えます。

ということで、このような会社は私にはあまり関係がないので、展示会の方は、ヘルスケアITのエリアに直行。ただし、あまり3年前と代わり映えしません。ウェアラブルの最終製品の展示を期待したらがっかりします。その中では、ソシオネクストが3年前ぐらいから毎年出展しています。小型の超音波エコーを一般ユーザー向けに販売しています。小型の血圧計もあるようです。最終製品で目立ったのはこれぐらい。

展示会は多分こんなところだろうと予想していましたので、実は、今回は再生医療のセミナーの合間に少しだけ展示を覗いただけでした。

東京ビッグサイト東ホールの反対側では同時開催で国際医薬品開発展をやっています。そこの再生医療セミナー3つに参加しました。なお、会場では写真撮影禁止でしたので、ウェブサイトから関連画像を入手しました。

1 再生医療の更なる発展に向けて~経済産業省の取組~

スピーカー:西村 秀隆 氏、経済産業省商務情報政策局 生物化学産業課長 西村 秀隆 氏


生物化学産業課長というのは、バイオ課長と呼ばれているそうです。経済産業省には厚労省との窓口部門が2つしかなく、ここはそのうちの一つで、この課長さんは、年中厚労省と会っているそうです。厚労省はちょっと変わった役所ですので、お付き合いは大変だろうと思います。この課長さんは、厚労省さん、文科省さんと他省庁のことを「さん」付で呼びます。この「縦割りで、別の会社と同じ扱いです」と言わんばかりの呼び方が少し気になりました。同じ会社の社内で、人事部さんとか営業部さんとか呼ばないですよね。

さて、経済産業省としては、再生医療産業は、今後大きく成長する産業であると目を付けて予算獲得をしています。「日本を再生医療のハブにする」という政策なのだそうです。
経産省の医療に対する政策は、(より早く)先制医療、(より効果的に)個別化医療、(より優しく)再生医療、なんだそうです。今日のお話は、最後の再生医療が対象です。

ところで、一昨日には日本国際賞の授与式があったそうです。これは日本のノーベル賞とのことです。知りませんでした。2組が表彰され、そのうちの1組が遺伝子編集のシャルパンティエさんとダウドナさんです。どちらも女性。CRISPR(クリスパー)/Cas9という画期的な遺伝子編集の手法を開発した方です。中国系米人のチャン氏と特許で揉めていることでも有名です。遺伝子編集については、ぜひ小林雅一著「ゲノム編集とは何か」(講談社現代新書)をお読みください。非常にわかりやすく書かれており勉強になります。ちょっと話が横道にそれました。

日本では、再生医療に関する法律として議員立法として再生医療推進法ができ、その後、薬事法が薬機法に改正され、また、再生医療等安全性確保法ができたそうです。

ご存知の通り日本は、薬の承認が遅いので有名でしたが、(iPS細胞でノーベル賞を取ったことも手伝って)再生医療の分野では、海外に先駆けていち早く承認するため、「条件付き・期限付き承認」の制度が導入されました。これが再生医療等安全性確保法に規定されているようです。安全性が確保できた段階で、有効性は推定の状態で承認され薬として使えるようにしようというものです。

通常の医薬品は、製薬会社が薬作って病院に届けるだけですが、再生医療については、下図のようなバリューチェーンが必要となります。人から細胞を取って、それを運搬し、加工(例えばiPS化)し、大量培養し、品質評価し、医療に使うというサイクルの中で、いろいろな企業が関係します。作られた細胞は、それに薬(候補化合物)をかけてその安全性や効果を確かめることにより、人への臨床試験の代わりにすることもできます。これが、サイクルの下あたりに「創薬」と書かれた部分になります。

再生医療に関係するいろいろな企業が日本にあることから、日本は再生医療の発展に最適な国だ、といいうのが西村課長のお話でした。

ベンチャー企業が出てくる場合も、このバリューチェーンのどこかに位置する企業になるわけです。

昨年開催したTEPのJ-Tech Startup Summit 2016で認定ベンチャーになったオリゴジェン(神経幹細胞)は、この条件付き承認があるために、アメリカから帰国して日本で起業した、と社長の城戸さんが言われていました。






2 ミニ臓器技術を核とした産業育成の展望

スピーカー:武部 貴則 氏、横浜市立大学 准教授、シンシナティ小児病院 Assistant Professor JSTさきがけ研究員


講演タイトルが硬いのであまり期待していませんでしたが、この先生は凄い方(まだ若い!)です。シンシナティというのは、P&Gの本社がある米国の都市です。そこの准教授もされています。

そもそも「ミニ臓器」は、人工心臓のような装置かと思っていましたが、iPS細胞で作った未成熟な状態の臓器です。iPS細胞はどんな細胞にもなる細胞ですが、実はまだ、臓器を作るのには誰も成功していません。

この先生は、肝臓に近いものを作ってしまった方です。シャーレ(ガラスのお皿のようなやつ)で細胞を培養すると(何種類かの「分子」をふりかけたら目的の細胞になるそうです)、膜状の肝臓のような細胞ができるそうです。「肝臓の様な」ですので「肝臓様細胞」と呼ばれるそうです。英語ではliver like cellです。なぜ本物の肝臓でないのかというと、その機能が非常に弱いからだそうです。

膜状というのも問題です。臓器は立体ですので、平面の細胞ではどうしようもありません。(テルモの心筋シートも膜状ですね)

武部先生は、実際の肝臓を調べると、肝臓の細胞以外の細胞が含まれていることから、iPS細胞だけで肝臓を作るのではなく、間葉系細胞や内皮細胞を混ぜて培養してみたところ、ムクムクと盛り上がった立体的なミニ肝臓ができたそうです。

このミニ肝臓は、未成熟であり血管が通っていないことから、人体にそれを移植したら血管が自律的に繋がるのではないかと考えました。それをマウスで実験したら成功しました。ミニ肝臓が移植されたマウスは1匹だけ死んだだけで、その他のマウスはみんな長生きしたそうです。ちなみに、人間の肝臓移植の生存率より、このマウスの生存率が高いそうです。

ミニ臓器は、このように未成熟な状態ですが、体内に移植することにより正常な臓器になるものだったのです。

ミニ臓器は、このような再生医療だけでなく、候補化合物(薬の候補)をミニ臓器にふりかけて、薬が効くかを確かめることもできます。ミニ臓器は、創薬にも利用できるのです。

ミニ臓器を人体に適用するのは、まだ先だと思いますが、これはかなり期待が持てる技術です。

講演タイトルは「産業育成の展望」ですが、結果としてミニ臓器メーカーがこれからできてくるぞ、ということなのかもしれません。武部先生は、起業されないのでしょうか。応援したいです。





3 再生医療の産業化に向けた日立の取り組み

スピーカー:小林 豊茂 氏、(株)日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット再生医療プロジェクト 技師/博士(医学)/ 臨床培養士

3つ目のセッションは、日立の再生医療への取り組みです。お話された方は、日立の社員ですが、医学博士です。さすがに日立です。人材の有効活用ができていたら良いのですが、、、

それはそうとして、ここでは、再生医療業界すなわち、経産省の西村課長がお話されたバリューチェーンと、再生医療産業の潜在的な成長力のお話の後、日立製作所がどのような取り組みをしているかについてのお話をされました。このセッションは、この前の2つより聴衆が多く、会場は満員でした。Meditecにブースを出している医療機器関連会社が顧客(になりうる)の日立の取り組みを知りたい、ということだと思います。ただ、私にはあまり得るものはなかったです。


経済産業省の試算では、再生医療は、2030年に12兆円、2050年には38兆円の市場になるそうです。日立としてもなんとかこの市場にしっかり入り込みたいというところだと思います。

ただ、日立が製薬に進出するのではなく、バリューチェーンの中の機器関連の製造販売と、その関連のサービス提供を主にやるということのようです。その中でも、特に、これまでのクリーンルームの技術を生かして、細胞培養をするためのCPC(cell proessing center)に注力するようです。クリーンルームを受注すれば、そこに入る装置も売れるというストーリーだと思います。

日本ではCPCと呼ばれるそうですが、海外ではCPF (cell processing facility)と呼ばれているそうです。私は、3月に関西(池田市)の産総研で、細胞培養ためのアイソレーターを見せてもらいました。アイソレーターは、大きな箱にゴム手袋がついた装置で、その箱の中に人間が入るのではなく、ゴム手袋を介して作業をするというものです。

CPCは、クリーンルームですので、部屋全体がアイソレーターになっているようなものです。部屋に人が入る時は、エアシャワーをくぐり抜けて綺麗にしてから入るというのが面倒ですが、その中は広いので当然作業がしやすいです。細胞の大量培養のためには、CPCが必要になるのだと思います。

日本は、海外先進国と比べてCPCの数ではそんなに負けていないそうですが、日本のCPCは、研究用の中小規模のものが多いそうです。日立は、これから大型化するCPCを狙っているのだと思います。

このあと、材料研(NIMS)の方のセッション(再生医療の足場材料というテーマ)がありましたが、何となく専門的なお話のように感じたので、そちらには参加しませんでした。

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